不動産と預金はここが違う!データで見る成年後見の報酬実態と、実家・土地の「凍結」リスク回避策

認知症などにより判断能力が低下した場合、ご自身の財産を管理したり、売却・活用するといった行為が難しくなる可能性があります。特に実家や土地などの不動産は、その性質上「凍結」状態に陥りやすく、ご家族の方々が困惑するケースも少なくありません。

本記事では、成年後見制度が開始された場合に、後見人へ支払われる報酬の実態を最高裁判所が公開しているデータに基づき解説いたします。預金などの流動資産と不動産とでは、報酬の算定基準においてどのような違いがあるのか、また、意思能力の低下によって不動産が「凍結」するリスクと、それを回避するための生前対策として、家族信託や任意後見制度の活用方法についても掘り下げていきます。

ご自身の将来の財産管理に不安を感じている方、またはご家族の資産整理について検討されている方にとって、ご判断の一助となれば幸いです。

目次

はじめに:成年後見制度における「不動産の凍結」リスクと事前の備え

ご自身の判断能力が低下すると、財産管理に様々な制約が生じます。特に不動産の場合、売却や賃貸借契約の更新、大規模な修繕工事の決定など、所有者の意思表示が不可欠な場面が多くあります。判断能力が不十分な状態では、これらの行為が原則としてできなくなり、結果として不動産が有効活用できない「凍結」状態に陥る可能性があります。

このような状況に備えるための制度の一つが成年後見制度です。成年後見制度は、ご本人の財産や権利を保護することを目的としていますが、一方で、ご本人の財産処分権に一定の制限が加わるため、ご家族が不動産の処分や活用を検討する際にも家庭裁判所の許可が必要となるなど、手続きが複雑化することも少なくありません。

この「不動産の凍結」リスクを回避し、ご自身の意思を将来にわたって反映させるためには、生前のうちに適切な対策を講じることが重要となります。

成年後見制度の利用実態と社会的な位置づけ

最高裁判所のデータ(成年後見関係事件の概況など)によると、成年後見制度の利用件数は年々増加傾向にありますが、約3,000万人に上る65歳以上の高齢者全体から見ると、約25万件(令和4年)という利用件数は、全体のごく一部に留まっています。

しかしながら、相続や生前対策の相談においては、判断能力の低下という問題意識から、この制度について検討される機会が非常に多く、実務上では大きな存在感を持っています。利用者の内訳を見ると、認知症が原因で制度を利用するケースが6~7割を占めており、審判件数では成年後見(法定後見の一つ)が最も多くなっています。

このことから、成年後見制度は、特に認知症による財産管理の困難に直面した際の重要なセーフティネットとして位置づけられていることがわかります。

成年後見人への報酬はどのように決まるのか

成年後見人へ支払われる報酬は、ご本人の財産から支出されるものであり、その決定には家庭裁判所が関与します。

報酬決定の仕組み:家庭裁判所の役割

成年後見人の報酬は、後払い方式で年1回、家庭裁判所が査定し決定します。後見人は、年次の報告書を家庭裁判所に提出する際に、併せて報酬付与の申立てを行います。この申立てに基づき、家庭裁判所が後見人の職務内容やご本人の財産状況などを総合的に考慮して報酬額を決定し、ご本人の財産から支払われることになります。

基本報酬と付加報酬の二階建て構造

成年後見人の報酬は、主に「基本報酬」と「付加報酬」の二つの要素で構成されます。

  • 基本報酬:ご本人の財産管理の難易度などを考慮して決定されますが、その基準となるのは原則として預金や動かせる有価証券などの「流動資産額」です。重要な点として、実家や土地といった「不動産そのもの」は、基本報酬の算定基準となる流動資産には含まれません。
  • 付加報酬:通常の財産管理業務を超えた特別な業務を行った場合に認められるものです。例えば、ご本人の代理として裁判に対応した場合や、不動産や自動車といった高額な財産の売却・賃貸借契約の締結などを行った場合に、その業務の内容に応じて加算されることがあります。

成年後見制度は、一度開始されるとご本人が亡くなるまで原則として続くため、「降りたくても降りられないタクシー」に例えられることもあります。報酬も後見開始から終了まで継続的に発生し続けることになります。

【最新データ分析】成年後見人の基本報酬の実態

最高裁判所が公開している成年後見関係事件の概況などでは、後見報酬の実態がデータで示されています。従来の目安と、実際の報酬額には違いが見られることがあります。

最高裁判所のデータに見る資産額と報酬の関係

最高裁判所が公開しているデータから、成年後見人の基本報酬はご本人の流動資産額が多いほど高くなる傾向が示されています。このデータにより、実際の報酬がどの金額帯に集中しているか、より具体的な傾向が明らかになりました。

流動資産額別の基本報酬額の傾向

データによると、流動資産額に応じて以下のような年額報酬の傾向が見られます。

  • 流動資産500万円~1,000万円未満:年額20万円台のケースが80.6%を占めており、流動資産が少ない場合は年額10万円台となるケースも確認されています。
  • 流動資産1,000万円~5,000万円未満:年額30万円台が54%を占める最多の層となります。1,000万円をわずかでも超えると、報酬が年額30万円台へと移行する傾向が見られます。
  • 流動資産5,000万円以上:年額60万円台が50.3%で最多ですが、年額50万円台に届かない案件も約半数近く存在します。従来の月額6万円という目安を年換算すると72万円となりますが、実態は年額60万円台が中心であり、月額換算では約5万円台という傾向が見受けられます。
  • 流動資産1億円超:年額70万円台が約43%を占めています。

このデータから、従来の一般的な目安と実際の報酬額との間に差があることがわかります。ご自身の財産規模に応じて、具体的な報酬額の見込みを立てる上での判断材料となるでしょう。

将来的な報酬算定基準の見直しの方向性

成年後見制度の将来的な見直しにおいては、資産規模だけでなく、後見人が行った職務の内容や「貢献」をより重視して報酬を算定する方向性が示されています。これは、後見人の手間や負担の大きさをより適切に評価しようとする動きと見られています。

付加報酬が総額に与える影響と実務上の考慮点

基本報酬に加えて、付加報酬の有無は成年後見人への報酬総額に大きく影響します。付加報酬の申立てがあった場合とない場合では、報酬額に顕著な差が見られます。

  • 付加報酬の申立てがない場合:年額30万円台が最多でした。
  • 付加報酬の申立てがある場合:年額30万円台の割合が減少し、年額40万円台や50万円台へと移行する傾向が見られます。

特に流動資産1億円以上の高資産案件において、付加報酬の申立てがある場合、年額80万円以上が47.7%に上るというデータもあります。これは、約半数の方が年額80万円以上の報酬を支払っていることを意味し、付加報酬の有無が総額に与える影響の大きさが明らかになります。

実務においては、成年後見業務の中で特別な対応が必要な事柄が生じた際には、付加報酬の申立てを検討することが重要です。ただし、申立てを行うためには、その内容が具体的に付加報酬の対象となる業務であると認められる必要があります。

不動産を多く所有する方の成年後見:特に注意すべき点

前述の通り、不動産そのものは成年後見人の基本報酬算定の対象となる流動資産には含まれません。しかし、不動産を多く所有している方の場合、成年後見制度の利用には特に注意すべき点がいくつかあります。

まず、不動産の売却や賃貸借契約、大規模な修繕契約など、不動産に関する重要な法律行為を行う場合、後見人は家庭裁判所の許可を得る必要があります。この手続きは時間と手間がかかり、ご本人の意思が反映されにくい「凍結」状態を招く原因となりえます。また、これらの特別な業務には付加報酬が発生する可能性もあります。

特に、会社を経営されている方が成年後見制度を利用する場合、所有している自社株の議決権行使が制限される「議決権凍結」という問題が生じることがあります。未上場の自社株は流動資産とはみなされず、基本報酬の計算基準にはなりませんが、会社の経営権に直結する重要な資産です。後見開始後に自社株を手放さざるを得ない状況に陥ると、緊急の事業承継となり、会社経営に混乱や大きな負担をもたらす可能性があります。

このように、不動産や事業資産を多くお持ちの場合、成年後見制度が開始されてからでは、柔軟な対応が難しくなる場面が多く、事前に適切な対策を講じることが非常に重要となります。

成年後見制度の「凍結」リスクを回避する生前対策

ご自身の判断能力が低下した場合に備え、不動産の「凍結」リスクを回避するためには、元気なうちに生前対策を講じることが有効です。ここでは、主な対策として任意後見制度と家族信託をご紹介します。

任意後見制度の活用

任意後見制度は、ご自身が元気なうちに、将来判断能力が低下した場合に備えて、誰にどのような内容で財産管理や身上監護をしてもらうか(任意後見人、任意後見契約の内容)を事前に契約で決めておく制度です。公正証書によって契約を締結し、判断能力が低下した後に家庭裁判所が任意後見監督人を選任することで効力が生じます。

任意後見制度では、任意後見人が選任されると、原則として同時に任意後見監督人も選任され、その監督人への報酬が発生します。監督人報酬は、一般的に任意後見人報酬の半分程度が目安とされており、最高裁判所のデータによると、流動資産6,000万円の場合で年額30万円台が58%を占める傾向が見られます。仮に監督人報酬が10年続けば、約300万円の負担となる計算になります。任意後見契約を検討する際には、この監督人コストも考慮に入れる必要があります。監督人報酬の詳細データは、裁判所のウェブサイトでも公開されていますので、参考にされると良いでしょう。

家族信託の活用

家族信託は、ご自身の財産(不動産や預貯金、株式など)を信頼できるご家族(受託者)に託し、ご自身が定めた目的に従って管理・運用・処分してもらう仕組みです。ご自身の判断能力が低下した後も、受託者がご本人の意思に沿って財産管理を継続できるため、不動産の「凍結」リスクを効果的に回避できます。

特に、不動産の売却や賃貸による活用、大規模な修繕など、柔軟な判断が必要な場面において、家庭裁判所の許可を必要とせずに受託者が迅速に対応できる点が大きなメリットです。また、会社を経営されている方の自社株の議決権凍結問題についても、信託契約を工夫することで回避することが可能です。家族信託は、ご自身の財産を次世代へ円滑に承継し、またご本人の意向を尊重した財産管理を継続するための有効な選択肢となります。

親の土地に子の家が建つようなケースにおける家族信託の活用については、以下の記事もご参照ください。

その他の対策

この他にも、ご自身の意思を明確にするために遺言書を作成することや、生前贈与を通じて計画的に財産を移転すること、あるいは死後事務委任契約を結んでご自身の死後の手続きについて定めておくなど、様々な生前対策が考えられます。ご自身の状況や財産の種類、ご家族の状況に応じて、最適な対策を組み合わせることが重要です。

成年後見制度の将来:2028年改正の見通し

成年後見制度は、2028年頃を目途に制度改正が見込まれています。この改正によって、制度の使い勝手が大きく変わる可能性があります。

改正の方向性としては、現在の「資産規模」を基準とした報酬算定から、「貢献」を基準とした報酬体系への移行が検討されており、後見人の職務内容や負担の大きさがより適切に評価されるようになると見られています。また、途中で後見を終了できる「貢献制度」への移行も見込まれており、これにより、後見制度がより柔軟な形で利用できるようになるかもしれません。

任意後見制度についても、改正後は任意後見監督人をつけなくても良いケースが認められる可能性が示唆されています。ただし、これらの制度改正はまだ検討段階であり、具体的な運用の詳細については不透明な部分も多いのが現状です。そのため、「後見をやめられるか」といった質問に対しては、現時点では現場運用が未確定であると回答するのが、一般的な対応といえるでしょう。

Q&A:成年後見制度に関するよくある疑問

Q1: 成年後見制度は必ず利用しなければならないのでしょうか?

A1: ご自身の判断能力が低下した場合でも、必ずしも成年後見制度を利用しなければならないわけではありません。しかし、法的な契約行為(例えば不動産の売却や賃貸借契約の締結、預貯金の解約など)ができなくなることで、ご本人やご家族が困る状況が生じることがあります。そのため、状況に応じて、ご本人の財産保護や生活維持のために制度の利用が検討されます。生前対策として、任意後見契約や家族信託などを利用することで、成年後見制度の利用を避ける、あるいはその影響を緩和することも可能です。

Q2: 後見人が不動産を勝手に売却することはありますか?

A2: 成年後見人は、ご本人の財産を守るための職務を負っており、ご本人の利益を最優先に行動する義務があります(民法第859条の3)。ご本人の居住用不動産を売却する場合などは、家庭裁判所の許可がなければ行うことはできません(民法第859条の3)。また、それ以外の不動産についても、ご本人の利益に反するような不適切な売却は認められません。家庭裁判所が後見人を監督しており、不正行為があった場合は後見人を解任することも可能です。

Q3: 家族信託と成年後見制度はどちらが良いですか?

A3: 家族信託と成年後見制度は、目的や機能が異なります。成年後見制度は、すでに判断能力が低下したご本人の財産と権利を保護するための制度である一方、家族信託はご自身の判断能力が十分なうちに、将来の財産管理や承継について柔軟な計画を立てておくための制度です。どちらが良いかは、ご自身の現在の状況(判断能力の有無)や、何を優先したいか(財産の柔軟な管理か、権利保護か)によって異なります。一般的には、判断能力が低下する前にご自身の意思で計画を立てておきたい場合は家族信託や任意後見が有効な選択肢となり、すでに判断能力が低下している場合は成年後見制度が主な選択肢となります。それぞれの制度のメリット・デメリットを理解し、ご自身の状況に合わせて検討することが重要です。

まとめ

本記事では、成年後見制度における後見報酬の実態を最高裁判所のデータに基づいて解説し、特に不動産を所有する方が直面しうる「凍結」リスクについて掘り下げました。不動産が報酬算定の基本基準には含まれないものの、その売却や活用には付加報酬が発生し、家庭裁判所の許可が必要となることで、ご本人の意思が反映されにくくなる点が明らかになったことと存じます。

このようなリスクを回避するためには、ご自身の判断能力が低下する前に、任意後見制度や家族信託といった生前対策を講じることが非常に重要です。特に家族信託は、不動産の柔軟な管理・処分や、会社経営における議決権凍結の回避など、多岐にわたる課題への対応が期待できる制度です。将来的な成年後見制度の改正も見据えながら、ご自身の状況に合わせた最適な対策を検討するきっかけとなれば幸いです。

本記事でご紹介した内容は、一般的な制度や考え方を整理したものです。

不動産の評価や負債の有無、ご家族の関係性など、個々の状況によって最適解は異なります。

ご自身のケースを客観的に整理したい場合は、初回相談を無料でお受けしています。

状況の確認が必要な方は、お気軽にお問い合わせください。

本記事の内容は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案については必ず専門家にご相談ください。

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