不動産評価額を下げる合法的な生前対策:方法と注意点

相続不動産の評価額を下げる合法的な生前対策とは?

「将来の相続で、不動産の評価額が高くなり、相続税の負担が大きくなるのではないか」という不安をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。不動産は相続財産の中でも大きな割合を占めることが多く、その評価額は相続税額に直結するため、生前の対策が非常に重要です。

しかし、どのような対策があるのか、どのような点に注意すれば良いのか、判断に迷うこともあるかもしれません。本記事では、相続における不動産の評価額を下げるための合法的な生前対策について、具体的な方法とそれぞれのメリット・デメリット、注意点を解説します。ご自身の状況に合わせた適切な対策を検討するための判断材料としてご活用ください。

目次

不動産評価の基本と相続税への影響

不動産の評価額を下げる生前対策を検討する前に、まず不動産がどのように評価され、相続税にどのような影響を与えるのかを理解しておくことが重要です。

不動産の主な評価方法

不動産の価格には、いくつかの種類があります。ここでは、相続税評価額を理解するために必要な主な評価方法を解説します。

  • 実勢価格(時価):実際に市場で取引される価格です。売り手と買い手の需給によって変動します。
  • 公示価格:地価公示法に基づき、国土交通省が毎年1月1日時点の標準地の正常な価格として公示するもので、一般の土地取引の指標となります。
  • 路線価:国税庁が公表する、主要道路に面した土地1平方メートルあたりの評価額です。毎年7月1日に公表され、相続税や贈与税の算定基準として用いられます。一般的に、公示価格の80%程度の水準とされています。
  • 固定資産税評価額:市町村が固定資産税を課税するために用いる評価額です。3年ごとに評価が見直され、一般的に公示価格の70%程度の水準とされています。相続税や贈与税の計算では、原則として路線価(路線価地域以外は倍率方式)が用いられますが、固定資産税評価額が基準となる場面もあります。

不動産が相続税評価額に与える影響

相続税は、被相続人(亡くなった方)から相続人へ承継される財産(遺産)の総額に対して課税されます。不動産は、特に都市部に所有している場合や広大な土地を所有している場合に、その評価額が遺産総額に占める割合が大きくなりがちです。

相続税の計算においては、原則として相続税評価額(路線価や倍率方式に基づいて計算された評価額)が用いられます。この評価額が高ければ高いほど、相続税額も増加する傾向にあります。そのため、合法的な範囲で不動産の相続税評価額を引き下げる対策は、将来の相続税負担を軽減するために有効な手段となり得ます。

参考:相続税の申告要否判定に関するQ&A|国税庁

不動産評価額を引き下げる生前対策の選択肢

不動産の相続税評価額を引き下げるための生前対策には、いくつかの選択肢があります。それぞれの方法の仕組み、メリット、デメリット、そしてどのような状況の方に向いているかを解説します。

1. 不動産の活用(賃貸物件化)による評価減

ご自身が居住している不動産や更地(未利用地)を賃貸物件として活用することで、相続税評価額を下げることが可能です。

仕組み

土地や建物を他人に貸し付けると、その不動産は「貸家建付地(かしやたてつけち)」や「貸家(かしや)」として評価されます。貸家建付地や貸家は、所有者が自由に利用・処分できないという制約があるため、相続税評価額が一定割合減額されます。

  • 貸家建付地:土地の評価額は、自用地評価額から借地権割合、借家権割合、賃貸割合に応じた金額を減額して評価します(相続税法第23条)。
  • 貸家:建物の評価額は、自用家屋評価額から借家権割合、賃貸割合に応じた金額を減額して評価します(相続税法第24条)。

具体的には、土地の評価額は「自用地評価額 × (1 – 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合)」、建物の評価額は「固定資産税評価額 × (1 – 借家権割合 × 賃貸割合)」で計算されます。借地権割合や借家権割合は地域によって異なりますが、これにより評価額は概ね20〜40%程度減額されるケースが多いです。

メリット

  • 不動産を売却することなく、評価額を引き下げられる。
  • 家賃収入を得ることができ、被相続人の生計費や納税資金に充てられる。
  • 相続発生後の遺産分割において、収益を生む財産として活用しやすい。

デメリット

  • 不動産の管理や修繕の手間、費用が発生する。
  • 空室リスクや家賃滞納リスクがある。
  • 一度賃貸に出すと、自己使用したい場合に制約が生じる。

向いている人

  • まとまった現金収入を確保したい方。
  • 不動産を売却したくないが、評価額を下げたい方。
  • 賃貸経営に関心があり、管理の手間を負担できる方。

2. 生前贈与の活用

不動産そのもの、または不動産を購入するための資金を生前に贈与することで、将来の相続財産を減らすことができます。これにより、相続税の課税対象額を抑えることが可能です。

仕組み

生前贈与には、主に「暦年課税」と「相続時精算課税」の2つの制度があります。

  • 暦年課税:年間110万円までの贈与であれば贈与税が課税されません(贈与税法第21条の5)。これを超える部分には贈与税が課税されますが、少額を長期間にわたって贈与することで、将来の相続財産を着実に減らしていくことが可能です。ただし、相続開始前3年(改正により段階的に7年)以内の贈与は相続税の課税対象に持ち戻されます(相続税法第19条)。
  • 相続時精算課税:2,500万円までの贈与が非課税となる制度で、将来相続が発生した際に、その贈与額を相続財産に加えて相続税を計算し、既に支払った贈与税額があればそこから差し引くというものです(租税特別措置法第70条の2の4)。主に、比較的まとまった金額を一度に贈与したい場合に検討されます。

メリット

  • 計画的に相続財産を減らし、相続税の負担を軽減できる。
  • 贈与者の意思に基づき、特定の相続人に財産を承継させることができる。
  • 受贈者が早期に財産を活用できる。

デメリット

  • 贈与税や不動産取得税、登録免許税といった税金や手数料が発生する可能性がある。
  • 不動産の贈与の場合、贈与時の不動産評価額が贈与税の計算基準となるため、高額な税負担が生じる可能性がある。
  • 相続時精算課税を選択すると、その後の暦年贈与は適用できなくなる。

向いている人

  • 計画的に相続財産を減らしたい方。
  • 特定の相続人に、生前からまとまった財産を渡したい方。
  • 相続時精算課税制度の対象となる贈与を検討している方。

参考:No.4402 贈与税のしくみ|国税庁

参考:No.4420 相続時精算課税の選択|国税庁

3. 不動産の組み換え(売却と再投資)

相続税評価額が高い不動産を売却し、他の評価額が低い不動産や金融資産などに組み替えることで、相続財産の評価額全体を下げる方法です。

仕組み

例えば、路線価が高く、収益性の低い不動産を売却し、その売却代金で路線価が比較的低い地域にある収益性の高い賃貸物件や、金融商品(現金預金、有価証券など)に再投資するという選択肢が考えられます。特に、不動産を売却して現金化すると、相続税の納税資金を確保しやすくなるという側面もあります。

メリット

  • 相続税評価額を効果的に引き下げられる可能性がある。
  • 流動性の低い不動産を現金化し、納税資金の確保や遺産分割の円滑化を図れる。
  • 収益性の低い不動産を手放し、より収益性の高い資産へ転換できる。

デメリット

  • 不動産売却時には譲渡所得税が課税される可能性がある(所得税法第33条)。
  • 新たな不動産を取得する場合には、不動産取得税や登録免許税、仲介手数料などの費用が発生する。
  • 売却手続きや再投資先の選定に手間と時間がかかる。

向いている人

  • 相続財産に占める不動産の割合が高く、流動性が低いと感じている方。
  • 収益性の低い不動産を所有しており、資産構成を見直したい方。
  • 納税資金の確保を重視している方。

4. 法人化による不動産管理

個人で所有している不動産を法人(不動産管理会社など)に移管し、法人で管理・運用する方法も、相続税対策として検討されることがあります。

仕組み

不動産を法人に移すことで、個人が所有する財産は不動産そのものではなく、その法人の株式となります。この株式の評価額が、相続税評価額の対象となります。法人の負債を活用したり、法人の役員報酬を支払い所得を分散させたりすることで、総合的な税負担を軽減できる可能性があります。

メリット

  • 法人の負債を活用することで、相続税評価額を抑えられる可能性がある。
  • 所得分散により所得税・住民税の負担軽減が期待できる。
  • 事業承継の側面から、株式の譲渡等によりスムーズな財産承継が期待できる。

デメリット

  • 法人設立や維持にコスト(設立費用、税理士報酬など)がかかる。
  • 法人から個人への配当や役員報酬にも税金がかかる。
  • 不動産を法人に移転する際に、譲渡所得税や登録免許税が発生する可能性がある。

向いている人

  • 複数棟の不動産を所有しており、大規模な賃貸経営を行っている方。
  • 長期的な視点で相続対策と所得税対策を並行して行いたい方。
  • 法人経営に関する知識や専門家のサポートを得られる方。

5. 小規模宅地等の特例の適用要件の検討

小規模宅地等の特例は、被相続人等が住んでいた宅地や事業を行っていた宅地について、一定の要件を満たす場合に、相続税評価額を最大80%減額できる制度です(租税特別措置法第69条の4)。この特例の適用要件を満たすよう、生前に準備することも重要な対策の一つです。

仕組み

この特例には、特定居住用宅地等、特定事業用宅地等などいくつかの種類があり、それぞれ適用される要件や減額割合が異なります。例えば、特定居住用宅地等であれば、330平方メートルまでの部分について評価額が80%減額されます。

メリット

  • 大幅な評価減により、相続税負担を大きく軽減できる可能性がある。
  • 自宅や事業用不動産を子孫へ円滑に承継しやすくなる。

デメリット

  • 適用要件が細かく、複雑であるため、慎重な検討と準備が必要。
  • 相続発生後の遺産分割において、特例対象となる宅地を誰が取得するかが重要になる。

向いている人

  • ご自身の自宅や事業用不動産を相続人に承継させたいと考えている方。
  • 特例の適用要件を満たすための生前準備(居住実態の確認、事業承継の準備など)を行うことができる方。

参考:No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の計算(小規模宅地等の特例)|国税庁

対策を検討する際の注意点と確認事項

不動産の評価額を下げる生前対策は、多岐にわたりますが、実行する際にはいくつかの重要な注意点があります。

  • 相続人との合意形成:生前対策は、相続人全員の理解と協力が不可欠です。対策によっては、特定の相続人に不公平感を与えたり、将来の遺産分割協議を複雑にしたりする可能性もあります。事前に家族会議などを通じて、目的や意図を共有し、合意を形成することが重要です。
  • 税負担以外の費用:不動産の贈与や組み換え、法人化には、贈与税、登録免許税、不動産取得税、譲渡所得税など、様々な税金や手数料が発生します。これらの費用を考慮した上で、総合的にメリットがあるか判断する必要があります。
  • 遺留分への配慮:相続法では、一定の相続人に保障される最低限の相続割合である「遺留分」が定められています(民法第1042条)。特定の相続人に多くの財産を贈与するなどの対策は、他の相続人の遺留分を侵害する可能性があり、将来トラブルの原因となることがあります。
  • 長期的な視点での計画:不動産の評価額を下げる対策は、一朝一夕に効果が出るものではなく、数年〜数十年単位の長期的な視点での計画が必要です。例えば、暦年贈与は時間をかけて行うことで効果が最大化されます。
  • 専門家への相談:不動産の評価額は複雑であり、相続税の計算には専門的な知識が不可欠です。ご自身の状況に合わせた最適な対策を見つけるためには、行政書士、税理士、不動産鑑定士などの専門家へ早めに相談し、アドバイスを受けることをお勧めします。

よくある質問(Q&A)

不動産評価額の生前対策について、よくいただくご質問とその回答をご紹介します。

Q1: 生前対策はいつから始めるのが良いですか?

A1: 相続税対策は、一般的に早ければ早いほど選択肢が広がり、効果も大きくなります。特に、不動産の組み換えや暦年贈与など、時間を要する対策もありますので、ご自身のライフプランや健康状態を考慮し、できるだけ早い段階から検討を開始することをお勧めします。少なくとも、ご自身の判断能力が十分に保たれているうちに着手することが重要です。

Q2: どんな不動産でも評価額を下げる対策は可能ですか?

A2: 不動産の種類(土地、建物、マンションなど)、立地(都市部、郊外)、用途(居住用、事業用、未利用地など)によって、有効な対策は異なります。例えば、賃貸物件化が向いている不動産もあれば、売却して組み換えを検討すべき不動産もあります。画一的な方法ではなく、個別の不動産の特性に応じた対策を専門家と検討することが大切です。

Q3: 対策を行った結果、かえって税金が高くなることはありますか?

A3: 不適切な対策や、税制改正への対応が不十分な場合、意図せず贈与税や不動産取得税、譲渡所得税などの負担が増え、結果的に税負担が大きくなる可能性はゼロではありません。特に、生前贈与と相続税の関係、特例の適用条件などは複雑です。必ず専門家と相談し、事前にシミュレーションを行うことで、リスクを最小限に抑えることが可能です。

まとめ

本記事では、不動産の評価額を下げるための合法的な生前対策として、賃貸物件化、生前贈与、不動産の組み換え、法人化、小規模宅地等の特例の検討といった選択肢を解説いたしました。

これらの対策は、それぞれメリットとデメリットがあり、ご自身の家族構成、所有している不動産の状況、将来の希望などによって最適な方法は異なります。大切なのは、早めに検討を開始し、ご家族で十分に話し合い、そして専門家の客観的なアドバイスを得ながら、ご自身の状況に最も適した計画を立てることです。

相続に関する不動産や税務の疑問、具体的な対策の検討については、お気軽にご相談ください。

本記事の内容は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案については必ず専門家にご相談ください。

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